『ヒミツ』第6巻 42 時代の躍動3
42 時代の躍動3
「躍動」はね、時代だけに訪れているんじゃないの。
あなたの心にも訪れている。
最近、心がざわざわすることが増えてない?
他人といっしょにいることを苦痛に感じるとか。
以前は平気だったのに、むしろいまは仲間から離れたい、
一人になりたい、って思うことが多くない?
気が付いたら、休日はほとんど一人で過ごしてる、って。
家族は家族でいいのだけれど、一人は一人でまたこれもいい。
一人の時間に、あんまりお金はいらない。
以前はできるだけいっぱい欲しい、
あればあるほどいいって思ってたけれど、
お金は他人たちと過ごすために必要だったんだ、
って気がしなくもない。
他人たちと同じように流行の服を着て、
他人たちと同じようにブランド品を買い、
他人たちが☆を付けた店に行っては、
他人たちから「いいね」をもらうために写真を盛る。
喧騒のためにお金はあればあるだけいいけれど、
ぼっちのためには必要な分があればいい。
それより大事なのは、こうして一人でいられること。
精神的に、拘束されていないこと。
物理的に、距離を取れること。
利害関係に、支配されていないこと。
なにより、自分自身を制限していないこと。
みな上の項目ばっかに目が行きがちだけれど、
一番難しいのは、自分で縛っている自己限定を外すことかな。
他人による限定は、息苦しいのですぐわかる。
でも、自己限定の方は、むしろ心地いい。
安全な外壁に覆われた、いつもの場所。
ここに籠っている限り、傷つくことはない。
いつもの行動パターン、いつものやりかた、いつもの言い方、
いつもの「いつもの」やつ。
・・・でも冷静に考えたら、いつからいつものやつになったんだろう?
いつの間に、「いつもの」はいつもの化した?
「いつもの」君は、離れようとすれば不安になる。
危ないから帰ろうよ、早く扉を閉めちゃいなよ、って。
・・・でも、ぼっちのときは、ちょっと違うかもしれない。
名も知らない小さな花を見つけたとき、わたしは防衛してない。
心地よい風にくすぐられるとき、わたしは繕ってない。
小鳥たちのさえずりに耳を傾けるとき、わたしは構えてない。
ぼっちのとき、わたしは「いつもの」制限から自由になってる。