『ヒミツ』第6巻 42 時代の躍動3

2023.09.22 その他

42 時代の躍動3

「躍動」はね、時代だけに訪れているんじゃないの。

あなたの心にも訪れている。

最近、心がざわざわすることが増えてない?

他人といっしょにいることを苦痛に感じるとか。

以前は平気だったのに、むしろいまは仲間から離れたい、

一人になりたい、って思うことが多くない?

気が付いたら、休日はほとんど一人で過ごしてる、って。

家族は家族でいいのだけれど、一人は一人でまたこれもいい。

一人の時間に、あんまりお金はいらない。

以前はできるだけいっぱい欲しい、

あればあるほどいいって思ってたけれど、

お金は他人たちと過ごすために必要だったんだ、

って気がしなくもない。

他人たちと同じように流行の服を着て、

他人たちと同じようにブランド品を買い、

他人たちが☆を付けた店に行っては、

他人たちから「いいね」をもらうために写真を盛る。

喧騒のためにお金はあればあるだけいいけれど、

ぼっちのためには必要な分があればいい。

それより大事なのは、こうして一人でいられること。

精神的に、拘束されていないこと。

物理的に、距離を取れること。

利害関係に、支配されていないこと。

なにより、自分自身を制限していないこと。

みな上の項目ばっかに目が行きがちだけれど、

一番難しいのは、自分で縛っている自己限定を外すことかな。

他人による限定は、息苦しいのですぐわかる。

でも、自己限定の方は、むしろ心地いい。

安全な外壁に覆われた、いつもの場所。

ここに籠っている限り、傷つくことはない。

いつもの行動パターン、いつものやりかた、いつもの言い方、

いつもの「いつもの」やつ。

・・・でも冷静に考えたら、いつからいつものやつになったんだろう?

いつの間に、「いつもの」はいつもの化した?

「いつもの」君は、離れようとすれば不安になる。

危ないから帰ろうよ、早く扉を閉めちゃいなよ、って。

・・・でも、ぼっちのときは、ちょっと違うかもしれない。

名も知らない小さな花を見つけたとき、わたしは防衛してない。

心地よい風にくすぐられるとき、わたしは繕ってない。

小鳥たちのさえずりに耳を傾けるとき、わたしは構えてない。

ぼっちのとき、わたしは「いつもの」制限から自由になってる。