『ヒミツ』第6巻 18願い2
18願い2
筆者は願う。
いつの日か、人類がみな、必要な豊かさを
自らの手で生み出せる日がくることを。
自分が実はパワフルな存在であることに気がつき、
自分自身を「自己制限」から解放していく日が来ることを。
ほとんどの人は、自分にはどうにもならない外的原因があり、
それがいまの不十分な自分の人生を帰結せしめている、と考える。
その外的原因さえなんとかなれば、自分の不如意なこの暮らしも、
この給与も、この家も、この人間関係も、
思い通りのものになるのになぁ、残念だなぁって。
たしかに、それは事実。
そう思い、そう信じ、そのように行動し、
深層心理に自らそのように刷り込むことを日々くりかえしているのだから、
自分のすべてはまさにその自己規定の通りになる。
他方、そうじゃないのかも、と考え始めた人たちもいる。
たしかにこの世は、不如意な「外的原因」に満ち満ちている。
けれど、必ずしもそれが直接、「不如意な自分」を
帰結せしめているわけではない、と。
原因→結果の矢印は一意的ではなく、まして直線的でもなく、
実際には多様な連結点を多方向で持つ多様体なのであり、
どの点においてどういった方向で作用するかを選択しているのは自分なんだ、
「→」の方向性も、連結ポイントも、強弱も、選び方次第で変更可能なんだ、と。
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日曜日。
少し曇ってはいたけれど、初夏の日差しが強い。
彼は、近所の河原に家族で出かけた。
ときどき、そういう日がある。
冷蔵庫にある範囲のものをもって、ふらっと車でお出かけ。
ふだんからミニ探検を趣味としている彼には、
こうした穴場情報のストックが豊富だ。
そよ風が心地よい場所、清水がたゆたう場所、
木の葉のおしゃべりが快活な場所、せせらぎがにぎやかす場所など、
その日の天候や気分によって行き先を決める。
今朝は直観的に、ここにした。
地図には載っておらず、
現地に行って小道を自分で見つけるしかない、秘密の場所。
実際に自分の体を動かし、自ら経験を積もうとする人にだけ
あたえられる、特別な機会。
なにもないただの河原だけれど、流れているのは特別な時間。
子どもと遊び、犬と戯れ、淹れたてのコーヒーを飲み、
おせんべいをポリポリ。
そして、お昼寝。
平凡で、なにもない、しかしかぎりなく豊かな時が過ぎていく。
しかし、空気が変わったのは一瞬だった。
2台の見慣れぬ車によって。