『ヒミツ』第4巻 40 特徴1

2023.02.14 その他

40 特徴1

あなたが、スポーツカーに乗ってるとしましょう。

真っ赤な、カッコいいやつ。

軽いので、どんなコーナーもひらひら曲がれる。

出口にさしかかると、絶妙なアクセルワークで姿勢を変え終え、

強大なトルクで後ろから蹴られるようにぐいぐいと加速していく。

まさに人馬一体って感じね。

車好きの人には、たまらない瞬間。

さて、ここで質問よ。

運転手と、車と、どちらの方がより本質的な存在だろう?

*  *  *

ニンゲンには、顕著な特徴がある。

みながみな、「乗り物」の方を自分だと思っているの。

でも、あくまで乗り物は乗り物でしょ。

どれほど一体感が強くても、どんなにすてきでも、かけがえはある。

経年劣化も避けえない。

適度なタイミングで「交換し、更新していくもの」じゃないかしら?

にもかかわらず、ニンゲンは両者を同一視し、混同してる。

それがニンゲンの特徴なの。

結果、さまざまなドラマが生じてくるわ。

たとえば、廃車になったらすべて終わりという価値観からは、

刹那的なものが生まれやすい。

なにやったってどうせ最後は「無」になっちゃうんなら、

走れるうちに快楽を追求したほうがいいに決まってるじゃん。

他人のレーンにはみ出したとしても、知ったことじゃない。

ぼーっとして割り込まれる方が悪い、とかね。

でも逆に、混同しない人々は、別の考え方をすることもできる。

たとえば、運転手こそ車を乗り変えても継続する本質なのであれば、

今回はたまたま安価な軽自動車に乗っているドライバーもまた対等な存在であり、

自分がベンツに乗っているから優越してるわけじゃない、って自然に考えられる。

どっちの車がより大きいか、より高いか、よりピカピカしてるかって価値観も

意味を失うでしょう。

特に、「永遠に」「形を変えてはくりかえし」「何度でも」が前提になる場合は。

自分と肉体を同一視しすぎると、珍妙な喜劇/悲劇が起こりやすい。