『ヒミツ』第6巻 11暮らしの変化3

2023.08.13 その他

11暮らしの変化3

もうひとつの大きな変化は、「移動できない人々」の増加。

ここにもまた背後には貧困化の問題がありはするのだけれど、

「自分の頭で考えるという人間性の制限」、という補助線を引くなら、

別の光景が見えてくるかもしれない。

大量の失業者が生まれたあと、一時的な失業保険ではなく、

ぬるま湯生活費が生涯にわたって保証された場合、

多くの人はどういう選択をするかしら?

わざわざ会社に行ってしんどく働かなくても、

いまの貨幣価値で12万円とか、13万円くらいが

一生涯保証されるとしたら?

働かなくてもそこそこ暮らせてしまう人々は、

余暇を持て余すようになる。

でも、旅行やショッピングやレジャーに行けるわけでもない。

そうした人々向けには、格好の暇つぶしが用意されるの。

それが、アバターライフ

電脳空間上なら、鬱屈したこの人生を抜け出せる。

お姫様にも、王子様にも、インディージョーンズにもなれる。

通信技術やVR技術が発展すると、リアリティも十分に味わえる。

AIが、手に汗にぎるさまざまなシナリオを用意してくれるわ。

政府も、全力でアバターライフを応援してくれるしね

ぬるま湯生活費をあてがわれ、娯楽もふんだんにあたえられ、

添加物にまみれた便利な食事もおやつもすぐそばに。

そこでは、ひとつのワールドが明確な意図をもって構築されていく。

自分の頭で考える、自分の体を動かすことで経験を積む、

難易度の高い目標に向かい仲間と切磋琢磨する、

とかいうのとは真逆の世界が作られていくの。

このワールドで暮らす人々は、政府のやることに疑問をもたない。

ただ与えられたものを消化していくだけ。

部屋から一歩も出ずに、ね。

当然に、「自分の頭で考える」は生涯止まったまま。

ベーシックインカムがなにをもたらすか、

あなたなら、どういった補助線を引いてみる?