『ヒミツ』第4巻 12ミニマル大作戦4
2023.01.18
その他
『ヒミツ』第4巻 12ミニマル大作戦4
ケイコには、気になることもあった。
「自滅権」を行使する人々が、徐々にその数を減らしていることだ。
そうした人々は、ケイコの周りから姿を消しはじめていた。
同僚と衝突したり、協力会社とのトラブルに巻き込まれたり、
お客さんから無理難題を押し付けられたり、
冷え切った仮面夫婦になったり、親子の縁が切れたり、と
原因はさまざまだけれど、一番多いのは体調の悪化だろうか。
本人の場合もあれば、身内の場合もある。
家族の中に一人でも体調の悪い者が出ると、家族全体がスタックする。
病人を一人残して旅行に行くわけにもいかず、介護を放り出して
コンサートに出かけるわけにもいかない。
有休は使い切ってしまい、仕事に集中もできず、やがて心身が擦り切れてくる。
休職に追い込まれる者、退職せざるをえなくなった者、
自発的に転職していく者などさまざまだ。
目を三角にした人々は、徐々に、ケイコの視界から物理的に
遠い存在になっていった。
彼女たちは、因果律が到達しない世界の住人となっていく。
おそらく、そうした人々は、ケイコの視界に入らぬ彼方で
<被害者>となり、被害者同士で殺伐しあうのだった。