『ヒミツ』第4巻 7グレート・リセット3
『ヒミツ』第4巻 7グレート・リセット3
ケイコの言動に迷いがないのは、すでに「その日」を
先行体験していたからだ。
夢で見た。
つるべ落としのように、世界の株価が暴落していった。
100年に一度と言われたリーマンショックをはるかに上回る、
前例のない規模だった。
各種の金融デリバティブも同様で、特に資源系の先物や、
不動産をベースにしたREITは目も当てられない惨状を呈していた。
信用取引で実際の手持ちキャッシュを何倍にも膨らませていた人々は、
巨額の追証に右往左往していることだろう。
落差はすさまじいものとなっていた。
2025年の暮れから2026年にかけてだった。
資産運用に励んでいた個人だけでなく、従業員たちの大切な退職金や、
健保の積立金、企業年金の運用、
全国民が対象となる年金基金なども同様だった。
金融機関が破綻し、有名な大企業から地元の中小企業まで
一気に連鎖倒産が広がっていったが、最後の貸し手であるはずの政府には、
すでに救済に入れる余力はなかった。
一連のコロナ支出が巨額に膨らんでいたため、救済どころか、
そもそも政府の財政自体が各国で連鎖的に破綻をはじめていたのだ。
前代未聞のできごとだった。
その数年前から、経済基盤がもっとも脆弱な
最下層の開発途上国から順にデフォルト劇がはじまっていたのだが、
やがてそれは下層国へと波及していき、
最後は一気に中層国~先進国たちの番が来たのだった。
人類史における最初で最後の、まさに空前絶後のスケールで
各国の経済崩壊は続いていった。
街には失業者があふれていた。
人類総貧困化の元年である。
目が覚めたとき、ケイコは恐怖のあまり身じろぎもできずにいた。
真冬だというのに、イヤな汗が全身からしみ出している。
夢想された「悪夢」とは異質の恐怖だった。
リアリティというものが、あんなにも生々しくリアルに
感じられたのは、はじめての経験だった。
そうか、これがグレート・リセットなんだ。
SDGs、カーボンニュートラル、脱プラ、
再生可能エネルギー、グリーン何とか等々。
すばらしい概念や国際協調の有意義さでラッピングされた
美しい言葉の背後では、こうした<リセット劇>が、
グローバル・エリートたちの手によって最初から用意されていたのだ。
ケイコはそう直観した。
その日から、彼女は変わった。