『ヒミツ』第8巻 38 あたらしい会社2

2024.01.07 その他

38 あたらしい会社2

昨年、筆者の会社では、廉価版ISPを立ち上げるという、

新規事業を行った。

オプション類を減らし、構成もシンプルにしつつ、

回線品質とサポート品質は高い水準を維持する、という企画。

ふつうISPは、やれ動画配信だ、セキュリティーの追加だ、

加入後は保険の勧誘だウォーターサーバーはいりませんかなど、

付加価値を付けてARPUを上げようとするけれど、

ユーザーからみたら迷惑なことが多い。

そういうのはできるだけ減らし、本質である

「回線とサポート」にフォーカスをあてたISPを作ったの

結果は見事に失敗。

TV広告、オリジナルのラジオ番組制作、チラシ、

地元プロバスケのスポンサー、地域ポータルとの連携など、

当社が従来やってこなかったマーケティングを

矢継ぎ早に展開していったのだけれど、結果はさんざんだった。

ブランド力は一朝一夕につくものじゃないし、

認知度の向上にもかなりのコストがかかる。

ネット回線は契約してみないと良さがわからず、

入り口で躊躇し、はやり大手の方が安心って消費者心理を

変えることはできなかった。

低価格な商品設計にも問題があり、

販促コストが想定外に膨らみはじめると、

それを吸収できる余裕がないのも致命的だった。

しかも、ネットから自分で判断して入ってくるユーザーは

若くて能動的な人が多いため、短期に別のISPへ目移りしやすい、

という特徴も持っている。

加入させるのにも苦労し、加入後も苦労が続くって

典型的な「殺伐コース」に自ら足を踏み入れちゃったのよ。

なぜ、こんなことになったのかしら?

それはね、過去一で盛り上がっていたから。

過去に実施したあらゆる施策の中で、

ダントツおもしろかったのよ、この企画。

・BGMを自分たちで作曲

・キャラクターも自分たちの手作り

・Lineのスタンプやtwitterでの独自プロモ

・TV広告も自分たちのアイディアで勝負

・ラジオの収録スタジオまで社内に創り、編集やミキシングも自社で

・プロバスケのスタジアム内でのマーケも、イオンのモール内イベントも

こんな感じで、続々と社員たちの発案による独自企画を

考えては実行し、試行錯誤し、また直しては実行と、

とにかくプロジェクトは大きく盛り上がったの。

自滅に向かって、何千万円ものコストを肥大化させながら。。。。

いまになってふりかえると、新規プロジェクトに特有な

あの高揚感の裏には、みんなの「被害者」創造のメカニズムが

あったんじゃないか、って筆者は思っている。

彼自身も含め、幹部たちも、社員たちも協力会社さんたちも全員が、

「ひたすらコストが膨らんで、自滅にまっしぐら」という

このプロジェクトを心からたのしんでたの。